■第4回福岡市議会定例会(9月5日〜16日)
○福岡市の図書館の在り方について
「民でできることは民で」と、行財政改革プランに基づいて、進められようとしている指定管理者制度が、公立図書館にも及ぼうとしています。全国では県立6%、市町村立12%です。福岡県内は24%で全国平均より高い割合となっています。
福岡市教育委員会は、本年6月に「福岡市総合図書館新ビジョン」を策定しましたが、運営方法について「指定管理者制度などの民間活力の導入含めて検討」と明記されたことから、その問題点を明らかにし、図書館運営は指定管理者制度ではなく、直営で行うべきと主張しました。 |
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@福岡市の図書館の役割をどう認識していますか。
【教育長】
- 市民のニーズに対応して、図書等の資料を収集・整理・保存し、市民の利用に供することによる、生涯学習や調査研究等の支援である。
図書館は、社会教育法の精神に基づき、学術・文化の発展への寄与と共に、本を中心として市民の知的好奇心を刺激するもので、社会全体の、知的財産の根幹を成すものです。また、自ら考え、判断・行動することを手助けしてくれる、市民の暮らしや仕事、まちづくりにも必要不可欠な施設です。
A図書館では、図書館運営のための職員が配置されていますが、1996年福岡市総合図書館 開館時と、 本年4月1日現在の職員構成を、正規職員、非常勤嘱託職員の別にお知らせください。またその構成比はどうなっていますか。
【教育長】
- 総合図書館開館時については、総合図書館と分館を合わせて、正規職員が57人で約49%、非常勤嘱託職員が59人で約51%である。平成26年4月1日現在については、正規職員が34人で約24%、非常勤嘱託職員が106人で約76%である。
開館時の非常勤職員の割合は、ほぼ半数ですが、18年間で76%と大きく増加しています。
B本年度職員140人のうち、図書司書の資格を要件とする正規、非常勤嘱託職員の人数、その割合をお知らせください。
【教育長】
- 司書資格を要件とする非常勤嘱託職員につきましては、106人のうち80人で約76%である。正規職員については司書資格を要件とはしていない。
Cでは、全国の公立図書館で、2013年4月1日時点での図書司書の正規・非正規の割合をお知らせください。
【教育長】
- 割合につきましては、正規の図書司書が約49.6%、非常勤・臨時等の非正規の図書司書が約50.4%である。
全国的には、図書司書は、正規・非正規が本市の開館時と変わらない半々の割合です。言い換えれば、本市は、この間、図書司書の非正規化を積極的に進めてきたという事になります。
D図書司書の方々の仕事内容、及び勤務時間についてお尋ねします。
【教育長】
- 図書資料を担当する職員につきましては、貸出返却、読書相談、レファレンス、図書の選定、調査研究等を行っている。また行政資料や文学資料、郷土資料を担当する職員につきましては、資料の収集・整理・保存や調査研究等を行っている。
- 勤務時間につきましては、1週間について27時間30分、1日につき5時間30分とし、4週間につき8日の勤務を要しない日を所属長が割り振る。
図書館運営の要とも言えるレファレンスや図書の選定、調査研究、資料の組織化など専門的スキルを必要とする図書司書の全員が非常勤で、1日5.5時間勤務で福岡市の図書館運営を支えているという事です。言い換えれば、非常勤の司書がいなければ、福岡市の図書館は成り立ってこなかったということです。
E2013年11月15日に、福岡市総合図書館 運営審議会は、「これからの福岡市図書館のあり方について」答申を出されましたが、その概要についてお尋ねします。
【教育長】
- 答申でございますが、高度化、多様化する市民のニーズに応えるために、福岡市図書館の現状と課題を踏まえ、どのようなサービスがふさわしいか、図書・文書・映像の部門ごとに提案がまとめられたものである。また、サービスの充実に向けて、開館時間や他施設との連携、情報発信、交流拠点、管理運営等について、様々な意見が出されたことが示されている。
Fそれを受けて、本年3月、福岡市教育委員会は、「福岡市総合図書館新ビジョン」の素案を公表し、市民へのパブリックコメントを実施しました。パブリックコメントの主な意見はどのようなものでしたか。
【教育長】
- 主な意見につきましては、件数の多い順に、「運営体制について」「新たなサービス拠点やネットワークの充実等について」「学校図書館支援センターや子どもたちの読書活動の支援について」である。
G運営体制についての意見が特に多いという事ですが、具体的な内容とその件数の うち分けをお知らせください。
【教育長】
- 意見につきましては、大きく分けて、行政による直接運営を望む意見が68件、十分な検討を求める意見が28件、民間活力の導入を期待する意見が2件であった。
H市民の声では、図書館の直接運営の継続を求める声が7割もあり、慎重な検討を含めると98%となります。本年6月に策定された「福岡市総合図書館新ビジョン」には、「図書館サービスを向上していくため、指定管理者制度などの民間活力の導入を含めた 運営方法について検討」とされています。市民の意見は反映されていませんがなぜですか。
【教育長】
- 運営方法の検討は、厳しい財政状況の中で、行政運営の仕組みや発想、手法を抜本的に見直すことにより、必要な財源を確保し、市民ニーズに対応していくことを目指す「行財政改革プラン」に基づいている。パブリック・コメント等による市民の意見や、図書館や広聴課等へ日常的に寄せられる利用者の声も参考に検討する。
2011年1月5日、当時の片山総務大臣は、閣議後の記者会見で、「指定管理者制度が導入されてから今日までの、自治体のこの制度の利用状況を見ると、コストカットのツールとして使ってきた嫌いがある。公共図書館は指定管理に馴染まない、行政が直営で運営すべきだ」と述べています。図書館サービスは、図書館法第3条「図書館奉仕」という法律に基づいた行政サービスです。
また、パブリックコメントは、行政手続法第39条に基づいた意見公募手続きに則ったもので、第42条には、提出意見を十分考慮するよう明記されています。7割もの意見を無視することは許されないことを申し上げておきます。
I「市民ニーズに応え切れていない」として、開館時間の延長が求められているということですが、「図書館サービスの向上」のためには、他にどんな改善が必要と考えますか。
【教育長】
- 改善につきましては、日頃からの利用者のニーズに応えるとともに、これまで図書館を利用していない層にとって、開館時間の延長を含め、新たな利用のきっかけとなるためのサービス拡大や新たなサービスが必要であると考える。
Jサービスの向上は、民間でないとできないのでしょうか。
【教育長】
- サービスの向上につきましては、図書館業務について、他都市の図書館の管理運営形態等も参考にして、行政直営による運営と民間による運営、それぞれのケースについて検討する。
K直営だからこそできるということも多くあると考えますが、直営のメリットについてお尋ねします。
【教育長】
- 図書館業務におきましては、全体の蔵書構成を考慮した図書資料収集の計画的な推進、公文書や行政資料の収集、本市各部局と連携した事業展開、学校図書館の支援等は、行政が担っていくところであると考える。
昨年、保健福祉局所管の福岡市自殺予防キャンペーンの一環として、総合図書館・分館で、「生きる力」をテーマに図書の展示が行われました。そこで出合った本に勇気を貰ったという市民の方からの報告をいただきました。市の関係部局や他の関係機関との協働事業の展開は、まさに直営ならではの取り組みです。また、本年9月に開設し、来年度本格運用を行う学校図書館支援センターは、学校図書館の機能を充実させるネットワークの中心的役割を担うもので、これも直営だからこそできる事業です。
L現体制で、分館を2時間の延長で20時までの開館とすれば何人の職員が必要となりますか。
【教育長】
- 分館だけでみると各1人程度の増員が必要だと考えるが、福岡市の図書館が、分館だけでなく総合図書館も合わせた組織であることから、全体で検討する必要があり、正規職員の人員配置も課題であると考えている。
分館には分館長・副分館長含めて全員が非正規職員です。分館は非常勤が運営しています。この間、図書司書を全員非正規にしてきたことは棚上げにして、延長の時間帯に正規がいないことは理由になりません。仮に正規職員の人員配置が必要だとしても、総合図書館は1時間の延長で済みます。人件費の増額を懸念していると思われますが、非常勤含め直接雇用には消費税はかかりませんが、指定管理など間接雇用には人件費に消費税がかかります。今後の消費税問題を考えれば、直接雇用だと人件費として有効に生かせる財源が、間接雇用では消費税で消えるということです。27.5時間から30時間勤務の移行やシフトの組み方など、勤務時間の体制を変更する事の検討もせず、指定管理導入の検討とは余りにも乱暴です。財政問題を理由にするなら、今後の消費税問題の観点からの検討も必要であることを申し上げておきます。
M全国で指定管理者制度を導入している図書館の割合を、県立・市町村立別にお知らせください。また、福岡県内での割合はどうなっていますか。
【教育長】
- 割合につきましては、平成25年4月1日現在で、県立が約6%、市町村立が約12%である。福岡県内の図書館は、平成26年4月1日現在で、約24%である。
福岡県は全国的に見ても高い割合となっていますが、その中にあっても、3年間の指定管理者制度から直営へ移行した、小郡市立図書館の永利館長のお話を、昨年伺うことができました。永利館長は、指定管理者、直営の両方の館長を経験された方です。指定管理者の館長としては、まず市議会、教育委員会に参加できず、公の立場で発言する権限がなかったこと、市の関係部署等の共同事業の展開に関しても、指定管理者を監督する課の了解を得なければならず、行政の理解を得るにも時間がかかり、スピードを削がれることがあると指摘しています。
また、カウンターに立って、市民と直接対応している指定管理者の職員には、新たな課題が見えても、それを解決する側の自治体職員には見えてこないため、当事者としての意識のずれが生じてくることも指摘されています。
N香椎副都心公共施設整備基本構想で、東市民センター、東図書館含む複合施設の整備が進められています。東図書館については、指定管理者制度が決まったかのように報道されましたが、財政面のみの観点から進めれば、図書館の無料の原則、課題解決の情報提供など、図書館が担う役割の本質から離れて、事業本来の目的が損なわれることを危惧しますが、ご所見をお伺いします。
【教育長】
- 香椎副都心公共施設につきましては、「にぎわいの創出」「くつろぎの演出」、「つどいの支援」を施設整備の基本的視点としており、東図書館については、その視点を踏まえ、生涯学習や文化サービス機能の充実に向けての効果的な運営という観点から考えていく必要がある。
O現在、市民図書館分館は、指定管理者制度で管理している各区市民センターにおいて、直営で行われています。ハードの管理は指定管理者制度でも、図書館の運営は引き続き直営でできると考えますが、いかがですか。
【回答】
- 今後の運営方法の検討にあたりましては、高度化、多様化する市民ニーズに対応するための、より効果的かつ効率的な運営という視点から考えていく。
地方自治法第244条の2には、「施設の設置目的を効果的に達成するため、必要があると認めるとき」に指定管理者制度を適用できるとしていますが、「効率的」とは言っていないことを指摘しておきます。
P「これからの福岡市図書館のあり方について」答申には、指定管理者制度について、「人と人が結び付けられるような暖かい図書館であって欲しいので、効率・効果・合理性だけを求めてはならない」、「数年で管理者が変わる指定管理者制度では、図書館の継続性、安定性が失われないか、職員の質の低下の恐れはないか」などを上げ、「直営が基本ではないか」と意見を述べられています。この意見に対するご所見をお伺いします。
【回答】
- 図書館のあり方につきましては、答申において、「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」に定められた事項が確実に実施されるよう述べられており、この内容を踏まえて検討する。
Q福岡市は昨年人口が150万人を超えましたが、公立図書館は、総合図書館と分館を合わせて11館です。他の政令市で、さいたま市、川崎市、京都市、神戸市、北九州市の人口と公立図書館数をお知らせください。
【教育長】
- 平成26年4月1日現在で申し上げますが、さいたま市が125万5,743人で24館、川崎市が145万3,427人で12館、京都市が146万7,219人で18館、神戸市が153万8,454人で11館、北九州市が96万6,976人で18館である。
1館当たりの人口比でみると、福岡市は、神戸市に次いで約13万6,900人と2番目に高くなっています。北九州市、さいたま市は1館当たり約5万人、京都市は約8万人です。福岡市は圧倒的に図書館が少ないことが分かりますが、これは言い換えれば図書館サービスの空白地域が多いことを表しています。「これからの図書館のあり方について」で出された市民アンケートによると、市民が図書館を利用する理由で一番多いのは、「自宅に近い」です。それに対し、利用しない理由の1番は「距離が遠い」となっていることからも分かるように、図書館サービスの向上で望まれるのは、身近な図書館です。
福岡市民の図書館登録者数が現在約22%の登録に止まっているとしていますが、それは、身近なところに図書館がないことが理由であって、図書館運営によるサービスの低下ではありません。
R図書館事業は、利益を生まない市民サービスです。お金に換算できないからこそ、教育委員会の責任で設置し、直接管理運営されるべきと考えます。利益を生むことを目的とする民間事業者が実施するということは、当然ミッションも違ってきます。図書館本来の役割が担保できるのか疑問です。ご所見をお伺いします。
【回答】
- 新ビジョンにおける新たな取り組みに対応していくためには、より効果的な運営体制についての検討が求められていると考える。「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」を踏まえて検討し、「市民がくつろぎ、本や人と楽しくふれあえる、新たな学び・情報・交流の拠点となる図書館」を目指していく。
図書館は人を育てる大事な生涯学習の拠点施設です。効率化を求めると、人を見ないで数字のみを追い求めるようになります。経費節減で質の高いサービスは得られません。
昨日、9日の山口新聞に、指定管理で運営されている下関市立中央図書館が、来年度より直営に移行するという記事が掲載されていました。「指定管理による運営では、人件費が抑制され、利用者に対応したサービスやレファレンスなどの充実を推進することが難しいと判断。指定管理者制度の導入から5年で方針を転換することになった」、と報じています。
このことからも、図書館の設置目的を効果的に達成するためには、指定管理者制度はなじまないことは明白です。これからの福岡市の図書館のあり方については、直営を基本に運営すべきです。
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